2020年9月30日、池袋シネマ・ロサのブッキングマネージャーであり、数多くのインディーズ映画を世に出してきたブラントンフィルムズ・勝村氏から「上映決定」の吉報が届く。映画『スモーキー・アンド・ビター』が、翌年の躍進に向けて大きく動き出した瞬間!でした。
池袋シネマ・ロサ…長い歴史を誇る老舗の映画館であると共に、インディーズの聖地、憧れの場所で公開できる!夢のようでした。そしてそれが、以前から密かに考えていた「海外映画祭への応募」へ背中を押してくれた。その後の映画祭への選出はもちろん嬉しいけど、それよりもっと凄いのは、もっと奇跡だったのは、何の後ろ盾もない、大手の宣伝配給もついていない、まったく商業的な意図で作られていない、内容的にもまったく観客に擦り寄っていない、さらには、シネマ・ロサが日頃推している若手インディーズ映画のテイストともまったく違う、そんな『スモーキー・アンド・ビター』の上映を決めてくれたことだ…と、今でも思っています。
最初のうちあわぜで「この映画は、自分たちが普段選ぶ映画とはあきらかに質が違う。ただ、こういう映画があっていいし、こういう映画にお客さんが入ってほしい。」との勝村さんの言葉が、ずっと耳に残っています。
同時に相談を進めていた大阪シアターセブンでの公開も11月21日からと日程が決まり、しかも、前年はイベント扱いだった「ハートボイルド・フィクション」上映から、今回は、念願のラインナップ上映(劇樹公開)扱いに昇格を頂いた。時期は少し離れたが、東西での劇場公開が決まり、そこからの自分のミッションは、両劇場の、上映素材、ポスター、フライヤー、宣伝戦略…など、諸準備を進めながら、同時に、海外映画祭応募に向けて、英語字幕の発注、ネットであれこれ検索しての情報収集。「劇場公開の成功と海外映画祭応募」の二大ミッションに、常にアタマと労力をフル回転させる日々が続きました。
ちなみに、海外映画祭に応募していることは、翌年1月中旬にロンドン国際映画祭の選出通知が届くまで誰にも話していません。「実は応募を始めていますが、どこにも引っかからなかったら恥ずかしいから、引っかかったら言います。引っかからなかったらなかったことにします」と、クラファンご支援者さま限定の活動報告に書いたことが一度あっただけ。初めて神威組のグループラインで報告したときの、キャストのみんなの「え?」「どういうこと?」「ロンドン?」「て?」という「?」の連発が面白かったです。だから、この時点での情報収集もひたすら孤独な作業。
インディーズ系の海外映画祭で受賞したところで、映画界の中で大きく注目されるわけではない。ただ、それによって、応援してくれるファンの方と一緒にワクワクドキドキしたり、歓喜の瞬間を味わえたりする。それがなにより嬉しかった。
2018年~2020年の神威組の年間サイクルは「春に撮影」「夏に完成」「秋にプレミア上映」。前年通りに行くなら、2020年内には脚本とキャスティングを決めて、1月~2月にクラウドファンディングを実施。4月~5月に撮影。というサイクルになる。しかし、翌年1月30日に控えたシネマロサ公開=大一番を控え、さらに海外の事をあれこれ調べる日々に、僕自身の気持ちが新作に切り替わらなかった。
こればかりは、全権ひとりプロデューサー態勢で進めている以上どうしようもなく、かつ、いくらチーム力の上がってきた神威組とはいえ、誰か他のメンバーに任せられない「根本的な意思決定」の部分だけにどうしようもなかった。他のメンバーも、例え事情を知っても、僕がなにか決めるまではどうにも動きようのない状態。
2021年1月30日、シネマロサ公開、連日の池袋通い。その後は、ロンドン、バルセロナ、ニース…と海外映画祭の興奮も続き、落ち着いて新作構想をする状況はなかなかやってこない。
もうひとつの事情。僕の脚本は「ほぼ100%アテガキ」が前提にあることも要因のひとつだった。役にあわせて俳優を探すのではなく、俳優に合わせて脚本を書く。神威組2021の船に一緒に乗ってくれるようお願いするメンバーを、正直言うとちょっと決めかねていたのです。出演者の顔ぶれが頭の中に並ばない状態でアテガキ脚本は書きにくい。誰かが変わると登場キャラのバランスが変わるので、キャスティングによって脚本自体が変わるのです。それを決断するには、大一番シネマロサを完走する流れの中で、みんなの熱意ややる気を確認する必要がありました。
結果、2020年内にはキャスティングも固まっている予定だった「神威組2021」の脚本執筆にかかったのは、本来なら撮影期間のつもりだったゴールデンウィークさえ近づく4月後半になった。
「納得いく脚本があがらなかったらその時は仕方ない。神威組の2021年はお休み…」の覚悟さえ決めていました。
しかし!その数週間後には「これを早く撮りたい!」「この脚本を映画にしないまま死ねない」…僕の中には、そんな強い想いが芽生えていました。
2021年5月8日、神威組2021新作脚本『ムーンライト・ダイナー』完成。
(つづく)