2021年5月8日、脚本完成。前年までの神威組の年間スケジュールであれば、すでに撮影も終えているはずだったゴールデンウィーク終盤。映画完成後のもろもろの展開から逆算すると、遅くとも10月には映画を完成させる必要がある。となると撮影は7月~8月前半。ロケハンが6月。クラウドファンディングが6月1日~6月末。さらにクラファンを成功させるには2~3週間前からの事前告知も必要。告知するということは、そこでキャストも決定しておりプロジェクトページの審査も完了しているという意味。タイムリミットは5月10日~15日頃。わずか一週間あまり。それまでにキャスティングを決定し、各方面との調整も済ませる必要がある。
「確実に時間はない。」「果たして間に合うのか?」
いや、普通に考えたらまず間に合わない。なにせわずか一週間しかない。でも動き出すしかない、その結果、さらに日程が遅れるならそれも仕方ない。時間がないとか間に合うかどうかではなく、とにかく始動するしか選択肢はなかった。通常、キャスティングにはそれなりの時間がかかる。ある程度の日程の押しを覚悟しながら、脚本完成後10分でキャスト用企画書を書き、ろくに文章チェックもしないまま一斉オファー。
▲文章とは全く関係ないですが、加賀谷崇文制作の小道具。ウイスキーボンボン。素晴らしすぎる。
そこから!
なんとわずか2日後には、あらかたのキャストが決定しているという奇跡。いまの神威組は、ほぼ固定メンバーでキャストの大変が埋まる状況にはあるけども、それでも、さすがに想定していなかった異例の早さで、クラウドファンディングのページ作成にかかることができたのは、予定通りに6月にクラファンを実施できたのは、この時のみんなのレスの早さのおかげだったのです。
また、ロケハン編でも書きますが、例年、みんなが参戦してくる撮影期間を迎えるまでの数か月間、ただひたすら孤独な準備作業に追われているのが常だったのですが、今回は、始動の最初の段階から、蜂谷英昭、萩田博之、坂本三成の3名が一緒にロケハンや大道具小道具の準備に動いてくれた。仕事で参戦が遅れた加賀谷崇文も途中から合流。今回は本当に助けられた。
「みんなの熱量が違う!」たびたびそう痛感した。
キャスティング決定の異例のスピードは神威組へのみんなの熱量の高さの現れであり、それは本当に嬉しかった。
そして脅威のスピードで目標を達成することができたクラウドファンディング。数年前から変わらず応援してくれている人たち。昨年から、今年から、僕らを知ってくれた人たち。すべての人たちが「信用してくれている」感をひしひしと感じていました。
三回目になるクラウドファンディング。自分は、特にお金のことで汚いことは絶対にしたくない、信用が第一、そう思ってバカ正直なくらいのやり方でやってきたことが、いまの信用と結果につながっていると思うと報われる思いです。コロナが猛威をふるい、人間の根底にある自分本位な考えや、人間の愚かな部分がさらられがちになる昨今、正直こそ、信用こそ、他者との信頼関係こそ、唯一の救いだと心から思います。そんなことを証明できたような気がして、本当に嬉しいのです。
キャスティングの話に戻っても、僕がお声がけする方々の第一の条件は「人間性」です。若いころはいろいろありました、いろんな方法論もありました、生き馬の目を抜くような世界です。そこに嫌気がさして、一度は芸能界を引退しました。ただ、この歳になってあらためて、信用と絆が第一の映画チームを作るにあたり、人生後半に一緒に「希望の船」に乗ってくれる人を選ぶにあたり、どうせなら「人生の宝」と呼べる人たちを集めたいのです。そして幸いなことに、いまの神威組のメンバーは僕が自信を持って「素晴らしい」と断言できる顔ぶれになりました。先日、工藤俊作さんからも、ほぼ同じ想いであろう嬉しい言葉をもらいました。やはり同じ時代を同じような想いで生きてきたので、僕も工藤さんも。嬉しかったです。
僕に自慢できることがあるとすれば、三年間かけて、人間的にも俳優としての力量的にも申し分ない、いまのメンバーを揃えたことです。同時に、こんな温かく、熱く応援してくれる人たちとつながれたことです。
そんな素晴らしい仲間と、素晴らしいファンの方々に囲まれて、映画を撮ることができて、それで面白くない映画にするわけにはいきません。今度はそのプレッシャーで押しつぶされそうでした。過去形です。いきなりリアルタイムのお話になりますが、日々編集にあけくれています「ムーンライト・ダイナー」は、これを書いている9月初旬、二次編集で全編がつながり、総尺109分の素敵な映画になっています。ここからは一部外注の納期待ちを含め、完成まであと三週間ほどかかりますが、そして、相変わらず難解な自分の作風、好みではない方もいらっしゃるでしょうが、映画に込めた自分のメッセージは確実に伝わる「素敵な映画」になっています。
そう、一言でいうと「素敵な映画を作ろう」が今回のコンセプトでした。みなさまにご覧いただくのはまだ少し先になりますが。
製作日誌に戻ります。
奇跡のスケジュールを乗り越え、いよいよ7月後半に控えたクランクインに向け、ロケハンと美術セットや小道具などの準備に明け暮れる日々が始まった。さて、昨年の製作日誌でも書きましたが、基本「無国籍」な世界で展開する自分の映画は、なにしろロケ場所がないのです。脚本は、それこそ海外のどこか広大な土地や田舎町でなけば成立しないと思える設定なのです。そういう映画を撮りたいのだから仕方ないです。でも海外ロケなんて無理。なんとか日本の、関東近郊で、神威映画を撮影できる場所をみつけることが、毎回の大きな課題になります。でも、なにせロケ場所が決まらないことにはスケジュールが組めない。まずはロケハンありき。
今回から「ひとりではなくなった」ロケハン部隊の長距離ドライブが、6月毎週末の日課となりました。
(つづく)