【完全ネタバレ解説②】ハートボイルド・フィクション【神威杏次】

 前回に引き続き【完全ネタバレ解説】続き。

エピソード2「BACKSHEET GIRL」

※ネタバレなしに映画をご覧になりたい方は、以下はスルーいただき、次回の上映機会をお待ちください

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 時系列があっちゃこっちゃ飛びまくるエピソード1に比べて、2と3に関しては普通に順番通りの見せ方。ただ、エピソード間の時間は大きくズラしてあって、メイン・エピソード~最終章が時系列的には最初に来て、倉岡が美雪と再会するラストシーン、探偵とアリサが街を出ていくエピローグの後に「バックシート・ガール」と「ガイズ・アンド・ピンクレディ」が(ふたつは同時進行で)始まる流れ。

※「ガイズ・アンド・ピンクレディ」の冒頭のシークエンスで、最終章のラスト間際の、鳴海が倉岡から返却された銃を発見するくだりがある。その時点では意味のわからないシーン。

 劇中の時系列をいじる目的と効果はいろいろあるのですが…余談になってしまうので、それはまたの機会に。

 2&3のストーリーに関しては、特に解説する必要もなく観たまんまですので、ここでは、断片的に「シーンの意味」をいくつか。

 

【サボテンとアビー】

 「日光と水があれば育つ」サボテンは「自立」のメタファー。孤児であったアビーが、ガソリンスタンドから万引きしたサボテンにルーシーという名前をつけて擬人化したり、大切にしたがるのは、根底に「自分の弱さの自覚」と「自立への憧れ」があるから。車外に投げ捨てられたサボテンを「かわいそう」と拾いに行ったり気に掛けるのは、アビー本人の「母親への憧憬」「家族への憧れ」など、ママゴトに近い願望の表れでもあり「他者に情けをかけている自分」=「強い自分」を演じている状態。しかし、実は救われているのはアビーのほうであることは、アビー本人もわかっている。「お守り」として近くにいてほしいのです。
 「わたし、サボテンになる」というラストのセリフは、意訳すると「わたし、強くなる。強く生きていく。」という自立宣言。

 

【正義とはなにか? 現代の「魔女狩り」】

「愛とはなにか?」と並ぶ映画のトータルテーマですが、エピソードの後半、タカシが愛ちゃんの兄である悪童を、その風貌や状況から「悪に違いない」と決めつけて暴力をふるうシーンがあります。「絶対悪者だよ、あの顔は」と決めつけるアビーに、一旦は「顔で決めるな」と諭しますが、元々、タカシが「自分の考える正義」に異常なまでに拘りがあり、納得できないこと=世の悪に対して反抗心が強いことは、プロローグの会話や節々の会話からわかる。そこから、他の登場人物が、戦う二人を「我関せず」とばかりにベンチに座って傍観しているシーンに続きます。重くならないよう、ナンセンスでにコミカルな演出にしましたが、僕がシーンに込めたメッセージは実はシリアス。

 人間は、正義の大義名分を振りかざしたときに最も残忍になる。それは、本人の「自分は正義だ」との想いの強さに比例する。その傍観者たちも同様に冷徹で、人間は、自分に責任を問われない状況ではとことん他者に冷たく、ただ傍観者となる。悪とみなした者には何をしても良いとされる空気、感情を消してただ見ているしかできない僕ら。

 あのアクションのくだりは、SNSやテレビのワイドショーでみかける、今の「私刑社会」「現代の魔女狩り」への皮肉。

 

【家族愛・自己犠牲】

 令嬢・愛ちゃんが自作自演の誘拐騒動をくりかえていることは、別エピソードの中の会話で明かされますが、ヒデさんが愛ちゃんに自分の娘を演じさせ、余命いくばくもない父親に孫の顔を見せにいく流れの中で、親の気持ち、大人の気持ちを理解しはじめる愛ちゃんの意識の変化が、エピソード2の主流ではありますが、実は、その兄である悪童の気持ちを察すること、表情から心境を汲み取ることが、当エピソードをご理解いただくうえでとても大事な部分です。

 兄・悪童=エピソード1の探偵と同様に「自己犠牲」のメタファーだからです。

 愛ちゃんの変化(内面的な成長)を確認した後の、加賀谷崇文さん演じる悪童の「微妙に嬉しそうな表情」は、全編の中でもかなり好きなカットです。報われることの少ない自己犠牲が、稀に報われた瞬間。

 

 B級ドタバタ映画へのリスぺクトを前面に出した「バックシート・ガール」。

 メインエピソードのシリアスさとは裏腹に見えるかも知れませんが、このエピソードも「愛と正義」…映画全体のトータルテーマをアプローチを変えて描いているだけで、同じ「ハートボイルド・フィクション」なのです。


つづく。

次回、エピソード3「ガイズ・アンド・ピンクレディ」解説へ。

 

▼メインエピソード、ネタバレ解説こちら。

▼エピソード3 ネタバレ解説

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