【完全ネタバレ解説③】ハートボイルド・フィクション【神威杏次】

 引き続き【完全ネタバレ解説③】

エピソード3「GUYS & PINKLADY」

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  男二人のシュールで不条理な会話劇から入るエピソード3は、エピソード間の橋渡しの役割と、映画全体の種明かしの役割を担っていて「バックシート・ガール」のネタバレ(愛ちゃん誘拐の真相)も「最終章・ジャスティス」に関わる非常に大事な情報(探偵クロネコが業務停止になった理由)も、このエピソード内で明かされる。


【「殺し屋オーディション」の話】

 完全に鳴海の冗談なのですが、ポイントは鳴海は「笑かそうとして」言っているのに、冗談をまったく冗談だと気づいてもらえない強面キャラの悲哀(?)と、いきなり「先輩」と呼ぶなど、一見バカにしているようなマサトの物怖じしない態度に、怒るどころか、内心はまんざらではないと思っている「実は寂しがり屋の強面男」という面白さを感じてもらえたら幸いです。

 

【合言葉「ハンバーガー」】

 マサトの仕事は、電話がかかってきたら受話器をとって「ハンバーガー」ということ。相手が「フィッシュバーガー」と云ったら、無言で受話器を置いて傍らのボタンを押す。仕事はそれだけ。ボタンを押すとどうなるか、劇中では言及していません。わかっているのは「なにか悪いこと」というだけ。

 「なにか悪いことなんですか?」と聞くマサトに、鳴海は「そうだとしてもやってるのは組織だ。俺たちには関係ない。」と答えるが、マサトは「でも、なにかしてるのは僕らですよね?」とくいさがる。

 このくだりの意味は、この直後に、珍しく思いっきり解説を入れてみました。

 川や海に汚染水を垂れ流しているのは人間。だが、その人間が「川の水を汚したい」「海を汚したい」と思っているわけではない。そんな奴はいない。でもやる。なぜなら「それが仕事だから。」…。ハンバーガーの話も同じこと。企業の歯車になり、仕事として命じられたら人間はなんでもやってしまう。たとえそれが直接的に環境汚染につながるとわかっていても。やらせているのは企業、法人という形のない人格。

 劇中の「怪しい組織」とは、どこにでもある普通の企業のこと。狙いはもちろん、資本主義社会へのアンチテーゼ。

 ここだけなぜご丁寧に解説を入れたのか?特に理由はありません。たまには劇中でガッツリ解説をいれたらどうなる?と思っただけです。「川の水~」のくだりは丸々カットしても成立するため、最後までカットするかどうか迷いました。

 

【変な女探偵・マリコの生い立ち】

 一回目のマリコと鳴海たちのシーンの最後で、マリコの事務所に「お母さんと手をつないで歩く女の子」の写真が写ります。それを意味ありげな表情で見る鳴海。鳴海の話から、マリコは「12歳の時に父親を燃やした」ことがわかる。「ガソリンぶっかけて火をつけた。」どうして?と聞くマサトに、鳴海の答えは「母親が好きだったんだろ?」…この一言の説明で、どこまで皆さんに想像していただけるものかわかりませんが。答えを書くと、幼いマリコと母親は、父親の家庭内DVに苦しめられていて(もしかしたら性的虐待さえ?)あまりの母親への暴力を見かねた当時12歳のマリコが、泣きながら父親にガソリンをかけ火をつけた…という裏設定。

 これもまた「果たしてそれは正義なのか?」…法律的にいうなら「過剰防衛」ということになるのでしょうが、それがまた12歳の少女の実の父親に対する仕業であることは、正義か悪かの判断を一段と難しくする。

【最終章につながる重要な会話】

 マリコが探偵クロネコと知り合いだと知った鳴海は「知り合いですか?最近見ないので」と聞く。マリコからの情報は「ずっとある事件を追っていたが、業務停止になって街を出て行った。」ということ。その理由を聞いた鳴海は驚く。

「調査に協力した刑事を殴ったから。」

 クロネコが「業務停止になった」こと自体は、一年前の(エピソード1の)倉岡との会話の中で聞いていたが、その理由は、そもそもクロネコが倉岡にも内緒にしていただけに、鳴海も初耳だった。劇中の鳴海の驚きは「(探偵・クロネコが)理由もなく刑事を殴るような男ではない。よほどのことがあったに違いない」という驚き。マリコのいう「ある事件」が倉岡事件であることはもちろんすぐにわかっている。

 鳴海は、映画にとって非常に重要な情報と共に、時系列的には一年前の出来事…「最終章・ジャスティス」へ、エピソード間を行き来します。

 

【ここに登場する三人の特徴は「答えにたどり着いている」こと。】

 自分の考えと他人の考えを必死に照合しながら生き方を模索している(つまり、普通な)他エピソードの登場人物に比べ、尋常ではない過去を乗り切ってきた(であろう)鳴海とマリコは、すでに何周も廻って「自分の生き方はこれしかない」答えに行きついている。そこにはもちろんアキラメもあるけども。そして、若く、まだまだ経験不足である青年・マサトも、潜在能力的に「早く答えにたどりつくであろう」深求心と好奇心を持ち合わせている。

 そんな、人間的に洗練されたキャラクター三人の会話劇は、一見、どうでもいいような会話の中に、それぞれの相手に対する想いや心の動き、各・人間性までがシッカリと浮かび上がってくる、映画として良いシーンに仕上がっています。そこはもう、俳優お三人の技量に感謝です。

もちろん描いているのはトータルテーマの「愛」と「正義」。

映画の中盤からスタートする、非常に重要なサブ・ストーリーです。


ネタバレ解説全3回、以上となります。

これから、さらに多くの方に映画をご覧いただけるよう頑張ってまいります。

ありがとうございました。

 

▼エピソード1&最終章ネタバレ解説

▼エピソード2 ネタバレ解説

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