映画『ヘブンズベル』クランクアップ。雑感。 BY 神威杏次
2年振りの神威組の新作『ヘブンズベル』は、2024年6月に実施されたクラウドファンディングで420名さまからの830万円に及ぶご支援額を達成、多くの皆様からの多大な支持を背に、2024年8月3日クランクイン、合計13日間の撮影期間を走り抜け、9月1日、無事にクランクアップとなった。
▲クラウドファンディングご支援者への「サンクスフライヤー」
折しも、激遅のペースで日本列島を覆った台風10号。まったく読めない天気予報に気をもみながら、「予備日がない」神威組のスケジュール。俳優やスタッフに危険が及ぶレベルでない限り、ひとの安全さえ確保できるなら「常に天候かかわらず決行」もし雨であれば雨の中のシーンにするしかないという紙一重の態勢。
結果は、まるで奇跡の連続。99%雨覚悟の日に不思議なほどの晴天、撮影が終了した途端に豪雨、当日や翌日の撮影決行が危ぶまれるようなトラブルもいくつかあったが、連日、日没ギリギリまでの激走。ロケ場所延長料金にて予算はどんどん超過していくものの、結果として撮りこぼしはなく、不思議なほどに「結果オーライ」が続く。もはや、神がかり的に「なにか持ってる」と感じるほど。
といいながら、撮影期間中の「激走」ぶりをお伝えするには、今現在「各方面への配慮から、まだ言えない出来事」が多く、現時点でお伝えするには足りません。早ければ来年予定の劇場公開時の舞台挨拶などで、その時点で、笑って話せるようになっていれば…。
2018年の結成当初、短編2本(『マイ・ガール』『アンナ』)と長編一作目(『ハートボイルド・フィクション』)は、準備から完成まで「(神威が)ほとんどの事をひとりでやった映画」といわれ、実際にその通りだった。次なる長編『スモーキー・アンド・ビター』(2020)から、自然に内部での役割分担・チーム化が進み、当時のブログに「神威組がチームになった」と記した。前作『7WAYS』(2022)では、少数精鋭ぶりに拍車がかかり、常にカメラをかつぎ四苦八苦する神威、その周りを常に動き回る萩田博之と蜂谷英昭、演技をしながらも現場ケアに奔走する坂本三成…、あきらかに全員がギリギリの態勢、「少数精鋭、神威組スタイルの限界点まで来ている」とパンフに書いた。それはもちろん意図的ではありました。「限界点まで行ってみる」ためです。それを経験することで「次に必要な最低限のこと」が見えてくる。
それらを踏まえ、今回の新作『ヘブンズベル』。
まず私がとった作戦は「出演者40名超、所帯の最大化」。純血メンバーと称した『7WAYS』から一転、初の出演者募集に応募いただいた中から10名の参加キャストを迎え入れ『7WAYS』の出演者もほぼ全員続投。人一倍、人選に拘りを持ち「厳選メンバー」を謳ってきた神威が初めてとった「人海戦術(という言い方が正しいのかはわかりませんが)」これは、40名超のキャスト費や大人数での移動費、日数増加…を考えるだけでも、仮にクラウドファンディングが伸びなかった場合は「100万円単位の持ち出し覚悟」となる、今だから言える「博打」でした。
その結果は、幸い、概ね好成果となり、ありがたいことに「次なる作戦とその結果」を生み出していきました。
まずは大盛況となった製作支援クラウドファンディング、その勢いのままクランクインした撮影現場には、これも初となる「カメラマンの起用」とそれに伴う撮影態勢の本格化、強化だった。撮影は吉川柳太氏、重いジンバルを毎カット抱え上げる驚異の体力と、なにより「神威映画の世界観を守る」との徹底した姿勢で初日からガッチリとチームに同化してくれ、その凄腕ぶりを発揮してくれた。
加えて「今回こそはロケ場所に妥協しない」と決めて5月と6月の二ヶ月間のロケハンを頑張りました。それができるのも皆様の多大なご支援があってのもの。おかげさまで撮影前から「納得いく絵作り」への態勢が整った。
「監督がいて、カメラマンがいて、音声さんがいて、カチンコをうって…」そんなことは一般映画にとっては当たり前のことだが、音声別録もカチンコも、前作までは「監督・撮影・音声=神威杏次」だったため必要のなかった段取りであり、神威組にとっては、新鮮かつ大きな変化だった。助監督のはずの萩田博之が音声を担当、もちろん本職ではない。坂本三成はシーンナンバーを毎カットごとに管理しカチンコを持ってカメラ前を走り回った(結果として「セカンド助監督」状態)。蜂谷英昭は常に美術・小道具を管理しながら、坂本の出演シーンでは当然のようにカチンコを打つ。新参加メンバーの中からも、裏地圭、小美濃たつやが担当した日もあった。
もはやそれが当たり前すぎて忘れがちだけど「全員、俳優」なんですよ、神威組は。
他、女優陣なども、さすがに制作として動くわけではないが「なにかできることがあれば」の態勢でいてくれる、暑い盛り、時を忘れて白熱する現場で「水分補給を」と水のペットボトルを持って回ってくれたのは、名古屋から毎週末のように新幹線で上京し、撮影に参加してくれた本条舞だ。ゲリラ豪雨であわや撮影中止かというときも中川ミコや平塚千瑛は、もはや「なにがあっても驚かない」みたいな顔で隣で笑ってくれている、だって神威組だもん…とでも言いたげに。
なにがあっても慌てなくて良い。きっとどうにかなる…そんな、まったく根拠のない自信のようなものが、僕らを包んでいたような気がします。
撮影が終了しても撤収・制作車への荷物の積み込み…すべて完了するまで本日終了ではない。誰もが「なにかあれば手伝う」姿勢で、制作陣の動きを見守ってくれている。台数の多く制作陣では運転手が足りない状態、前作から神威組のなんたるかを知っている森脇和成が、当然のように名乗りを上げてくれた。
名前を挙げないまでも、各参加者の嬉しいエピソードはたくさんある。誰もが、まだ勝手のわからない初参加チームに頑張って溶け込もうとしてくれていた。関わってくれた全員に感謝。
THE・神威組
きっと他の組とは「なにかが違う」神威組の撮影現場は、13日間の奇跡をまき散らしながら無事に撮了となった。
「皆さまから預かったご支援金を、少なくとも自分たちが楽をする目的で使うことは絶対しない。」「自分たちができることは自分たちでやる」…『ムーンライト・ダイナー』の劇場パンフに書いた宣言は、今も変わっていない。
記事:2024年9月、編集作業中の某日。by 神威杏次。
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