2019年12月、SNSでのキャスト発表にたくさんの方が反応してくださり、期待とプレッシャーがグングンと上がっていく中、僕はあることを思い出していました。そう、11月13日に「後回し」にしたままになっていた重大な懸念。
「ところで、これ、どこで撮るの?」
毎回、ロケ場所探しには頭を悩まします。おそらくみなさんが想像する以上に、僕らが映画を自由に撮れる場所ってそうそうないのです。「人がたくさんいる街中の交差点」「激しいアクションが可能な路地裏」なんて、良くある普通の光景でさえ、大手の制作がついていない、今の神威組の事情では難しい。撮りたいシーンや使いたい場所のうち、圧倒的に「無理」なことのほうが多い。結果、脚本を妥協することになる。でもなるべくそこを妥協したくない。
前回書いた「僕が撮りたい絵」がそうそうみつからないという事情もありますが、例えば「ロケバスがない」ことがなにを意味するかは、業界の方ならわかると思います。ロケバスは、単に移動手段ではなく、どんな場所でも、控室になり、メイク室になり衣装部屋になります。それがない。つまり、僕はどこの場所でも「トイレがどこにあるか?」「着替え場所をどうするか?」「近辺のなるべく安いパーキングはどこか?」という、おおよそ映画の画面には映らない部分を探し回ることになります。
幸い、そんな事情を知っている神威組の常連メンバーは、女優陣でさえ「大丈夫、適当にその辺で着替えます」と言ってくれたり、男性陣は、自宅から衣装を着てそのまま現場に入ってくれたりと協力してくれるわけですが。
ロケ場所も、どこかにあればいいということでもなく、その日の前の現場から移動時間のロスが最小限な範囲で次の現場を探す必要があるので、探すエリアが限られます。ご自分のお店を「使っていいですよ」といってくれる方は多いけど、そのシーンだけのために遠くに移動することもできない。
2018年の短編2本「マイ・ガール」「Anna」の製作費は各10万円(結果的に両方とも15万円を超えてしまいましたが)。まず制作車両がない。レンタカー代金やパーキングの料金もかけられないから、僕は自宅から「カメラ」「三脚」「大量の小道具類」「自分の衣装」「自分の荷物」を全部かついで電車の駅に向かいました。自動改札にSuicaをタッチするだけで大変な労力です。どこかの駅の長いエスカレーターで小道具の入ったキャリーバッグが転がりだしたときは泣きそうになりました。必死で追いかけて、エスカレーターの途中で五段くらいジャンプして「かかと落とし」でキャリーバッグを止めました。ふくらはぎを捻挫。
さすがに「ハートボイルド・フィクション」からは、ハッチャン(蜂谷英昭)の車を制作車両として使わせてもらうことにしましたが。機材もって電車乗るのはきつい。
そんなこんな「撮影に行ける場所」で「欲しい絵」になるべく近いロケーションを探し回ります。それそれは、本当に探しまわります。ほぼ全セクションをやる中で「プロデューサーが一番大変」という結論に至りました。監督や俳優なんて楽なもんだ…いや、決して楽ではないんですが、制作的な苦労の最中にいると、正直、そう思います。
でも、そんな苦労は報われるもので、マイ・ガールでは、阿佐ヶ谷の「アンティークス・カフェ」という、本物の黒猫さんまで常駐している素敵なカフェがみつかったり、ハートボイルド・フィクションでは、横浜の内装会社の作業場がめちゃくちゃフォトジェニックで…、そんな場所をみつけて、使わせていただけることが決まった時には、めちゃガッツポーズをします。横浜の作業場に「トイレがない」「トイレまで車で五分かかる」ことは、とうとう目をつぶりました。目をつぶっていいのか、そこ。
そして、それらロケ場所の魅力は、そのまま僕の映画の魅力のひとつになってくれています。ロケ場所大事。そこは絶対的に拘るべきところ。
話を「スモーキー・アンド・ビター」に戻します。
今回、脚本上に書いた「sideA」なるパートの舞台設定は「アメリカの田舎の州、メキシコのハズレ、西部劇の町…のような、どこか遠くにある、埃っぽい閉鎖的な町」。
どこにあるんでしょうか、そんな場所。
こうなったら「複数の場所を組み合わせてひとつの町に見えるように」撮るしかない。「絶対、いつも以上に大変になる」と、年明け1月2月の「地獄のロケハン」を覚悟。年末年始の間、インターネット上を検索しまくっていました。
が!まさかの!…そんな杞憂が、年明け1月5日、ロケハン一日目、たった一日でアッサリ解決することになる。
まだ撮影前のため場所を特定できる情報は書けませんが、ネットでその場所をみつけアポイントを取ると、すぐにハッチャン(蜂谷英昭)に連絡、翌日に二人で車で現地に向かって管理者の方に相談。即決!管理者の方もめっちゃ良い人!ここで「sideA」ほぼ全編が撮れる環境。もちろん完璧ではないけども、少しの設定変更だけでいける。となると、もう片方のエピソード「sideB」の舞台設定は普通の都会の町。難しいロケハンではない。
ガッツポーズなんてものではございません。カラダ全体がガッツ星人になるかと思いました。いとも簡単に、たった一日で…。物事が良い方向に転がる時ってそういうものかも知れません。大変だと覚悟していた事があっさり解決する。強運。
これで、1月は、開始を3日後に控えた大勝負に集中することができる。ホッとしながらも、すぐに僕は、次なる大きな不安に向かっていました。
ロケ場所が決まったことは万々歳ではあるけど、それでも、決して近場ではない。そこに数日通うだけで数十万の移動費と場所代がかかる。製作費をこれまでの数倍かけることは決定事項であるけども、その資金繰りが思惑通りにいかなかった場合、そのおカネはどうするの?前作までのように、全額ポケットマネーから出すには、ちょっとばかりヘビーな製作費が確定している状況。
そんな現実的な不安と共に、僕の頭の中には、おカネの問題だけではない、クラウドファンディング(が失敗した場合)のリスクがよぎっていました。
僕を信じて出演を快諾してくれた、クラウドファンディングという場所にも名前を連ねてくれた俳優陣に、このメンバーに…、
「このメンバーに、恥をかかせるわけにはいかないんだ…。」
1月8日、午前7時。「運命の」クラウドファンディングが迫っていました。
(つづく)
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